第4章 指南
「やれやれ。昨日は子猫のように大人しかったのにな。言ったろ。取って食いはしないぞ。」
「…っ…、だったら、取って食いそうな空気を出すのをやめてください。」
昨日ことを言われて、頰が火照るのが自分でも分かる。
「それはできない相談だ。それに、お前は俺に食われてもいいのだろう?」
スタスタと歩み寄り、光秀さんは悪びれもせず私の顔を覗き込む。
「お前はからかうといい反応をするからな」
(っ……前から薄々思ってたけど、やっぱり)
「光秀さんは、意地悪です……」
「おや、今頃気づいたのか?」
悔しさを噛み締め、笑みをにじませる切れ長の瞳をにらみ返していると–––
「お邪魔しまーす! 茜様、お勉強は順調?」
「光秀様が指南役をお務めになると聞き、どんな様子かお伺いに参りました」
「蘭丸くん、三成くん……!」
襖から顔を出したふたりを見た途端、ささくれだった心がふっと和んだ。
「光秀様、茜様を部屋の隅に追い詰めて何してるの?」
蘭丸くんが隅で丸くなってる私を見て、不思議そうに首を傾げる。
「意地悪を少々」
(これで『少々』……? 先が思いやられる……)