第3章 龍虎退治
「あの……ありがと…ございま…す。」
空になった茶碗に視線を落とすと、無意識にその手に力が入る
すると…、不意に冷たい手が頰に添えられて、
驚いて光秀さんに目を向けると、その手が頰の涙痕を優しくなぞる
僅かな月の光が逆光となって、光秀さんの表情は見えない。
「死ぬことも恐れぬような顔をしていたお前でも、さすがに戦を目の当たりにすれば心も乱れよう。今のお前はまるで童のようだな」
光秀さんの表情は見えないのに、微笑んでいるような優しい声が私の耳をくすぐる。
「大丈夫だ。家康の薬のおかげで、嫌な夢を見ることもない。安心して眠れ。」
光秀さんの胸へ引き寄せられた私の手から茶碗がごとり、と落ちた。
(えっ…?!)
「あ、あのっ…!こ、ここここれは一体…?!」
「ん?どうした?」
「こ、こここここ、この状態では逆に眠れないと思うんですが…っ…?!」
(心臓が…うるさい……っ…)
早鐘みたいな鼓動が頭の中で響く。
「くく…まるで鶏だな。安心しろ。とって食ったりしない。」
(この状況でどうやって、私に安心しろ、と??)
硬い胸板を押し退ければ、その腕から解放される。
そんなことは簡単なのはわかっていた。
だけど……、戦のあとの恐怖のせいなのか、私の中の寂しさなのか、この腕の中に留まっていたいと思ってしまう。
もっと強く抱きしめて欲しいとすら…