第16章 水色桔梗の言葉を
「ええ。私を牢へ入れるよう手引きしたのはあなた、そして……あなたの主でしょう? 私が織田信長を裏切り、新たに仕えることを選んだ相手が、顕如だと織田軍に思わせるために。引いては……私が『真の主』と決めたお方が何者かを、隠し通すために」
「……なぜわかった」
「少々暇だったもので。私なりに推測をしてみました。けしかける犬を見つけるのも容易だったことでしょう。私はあちこちで恨みを買っていますから」
「我が主の恐ろしさ、とくと身に沁みたことだろう」
「このようなお手間をかけずとも、存じておりましたのに」
くす、と優美に微笑んでみせる光秀を、使者は冷ややかに見下ろした。