第16章 水色桔梗の言葉を
「やっぱり何かの間違いなんですね。顕如様が同胞を傷つけた敵と手を組むわけないですよね……! それに……あの人がいくら怪しい人間でも……長年仕えた主君を裏切るなんてできっこないです」
何かを重ねているような口ぶりで呟いたあと、蘭丸はふっと視線を落とすと呟くように口を開いた
光秀によって囚われていた仲間が、光秀の不在の隙に、『光秀は仲間だ』と自白するように強要され激しい拷問の末に命を落としたことを報告した
「……そうか」
ふたりは静かに手を合わせ、遠くへ旅立たざるを得なかった同胞のため、黙祷を捧げた。
「–––何者かが私の名を騙り、光秀を陥れ、織田軍を分裂させようと目論んでいるということか」
「俺もそんな気がします。ただ……どうして明智光秀が無抵抗で投獄されたのかは謎ですけど」
いつの間にか日は陰り、雲行きが怪しくなり始めている。
シャン、と錫杖鳴らし、顕如は荒れゆく空を睨んだ。
「恨みを晴らすことなく、無慈悲に奪われた命への、供養をせねばな。信長の首を取るのは、そのあとだ」
「はい!」
…………