第3章 龍虎退治
「あの……、命を助けてくれて、ありが……」
「人殺しに礼などするな」
唇を人差し指で塞がれ、声が途切れる。
(っ、光秀さん……?)
「俺は人を殺め、そうすることでお前と共に生き抜いた。お前はその現実に傷ついた。そして、それはお前の望むものではなかったのかもしれない。全てを割り切れるか? できないなら、そのままでいればいい」
すぐに指は離れたけれど、ひんやりとして滑らかな感触が肌の上に残った。
(光秀さんと…共に生き抜いた…)
これは忠告? それとも慰め……? この人は、何か気づいてるのだろうか?
戸惑う私の手から、光秀さんが空になった茶碗を取り上げる。
「さて、ここからが本題だ。お前があまりの怯えようだったので、俺から信長様にあることを申し出た」
「何でしょうか……?」
「五百年後から来たという舞と同じく、お前もずいぶんと恵まれた環境で育ったようだな。この世の恐ろしい部分、汚い部分に、まったく耐性がないと見た」
(あの時代の中では、私の環境は決して、恵まれたものとは言えなかったけど……。ここと比べれば、平和な現代で生まれ育ってきたのは確かだ)
「戦場での見事な怯えっぷりを見る限り、お前がいつ信長様のおそばから逃げ出しても不思議はない。それに、お前はどこか自分の命を軽んじているところがある」
「そんな。今さら逃げ出したりなんて……それに……」
(……強くは言い訳できない…かな…)
「俺は疑り深くてな、人の言葉を頭から信じたりはしない質なんだ。誰かさんと違って」
人の悪い笑みを浮かべ、光秀さんが目を細めた