第3章 龍虎退治
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「茜、耳はふさいでもいい。ただし目は開けておけ。これが、無垢なお前が生き抜いていかなければならない現実と、–––お前が望んでいる、現実だ」
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(あの時、死んでいたかもしれない。)
それは…、私がずっと心のどこかで望んでいたことだった
彼のいない世界なんて、生きていても意味がない、そう思ってた。
茶碗を持つ手が微かに震える。
自分がいつも、どこかで望んでいたこと…
だけど…いざ、自分の目の前にそれが迫った時、私は怖くなって足が竦んだ。
目の前で簡単に奪われてゆく命に、倒れてゆく人たちに、自分が生きるために散っていった命に、自分を重ねることが怖かった。
(私は……、生きたいの…?)
出口のない迷路に迷い込んだようで、一人取り残されたような錯覚に陥る。
秀人のいない世界でも……、独りぼっちでも、やっぱり私は生きていたいんだろうか
夢に現れた秀人を思い出すと、彼のそばへ行きたい衝動にも駆られる。
茶碗に映る自分が、微かに揺れた。
「大丈夫か?茜」
黙って私を見ていた光秀さんの声に、我にかえって顔を上げた。
感情の読めない、光秀さんの瞳と目が合って、私は震える声を絞り出す。