第1章 プロローグ
ぽかんとしてあたりを見回すと、煙の合間からお寺の門が見えた。
くっきりとした文字で……『本能寺』と書かれている。
「つかぬことを伺いますが……今って、何年ですか?」
「天正十年だ。」
『天正十年(1582)、明智光秀に裏切られた織田信長は自害し、本能寺は焼け落ちました。』
(嘘でしょ……!?)
自分の頬を思い切りつねってみる。
(痛いっ、夢じゃないみたい。ってことは……私は本能寺の変の夜に、タイムスリップしちゃったってこと!?)
死にたいと願っていたのは確かだけど、タイムスリップさせて下さいとお願いしたつもりはない。
「!?」
そんなことを考えていると、不意に指先で顎を持ち上げられ、自称・信長の顔が目の前に近づいた。
「貴様、名は? 茜か。 悪くない響きの名だな」
「離して…っ」
私は織田信長の手を払いのけ、後ずさりした。
(いったい何がどうなってるの!?)
頭の中がぐちゃぐちゃで身体が震えだした時、大勢の人の声が近づいてきた。
「信長様! よくぞご無事で…」
(え……?)
現れた武士の一団の中から、ひとりの男性がそばへ走ってくる。