第1章 プロローグ
煙の中を夢中で走ったせいで、身体中が酸素を求めていた。
ハァハァと、懸命に新鮮な空気を肺に送り込む。
どうにか建物から出たところで、振り返ると、大きなお寺が煙に巻かれて燃えている。
さっきまで、そこに自分が居たと思うと恐怖で全身が冷えてゆくのがわかった。
一瞬でも死ぬことを覚悟したはずなのに。
「俺の寝入りを狙い鼠が忍び込んだか。無謀な輩がいたものだ。護衛を全員手にかけ近づくとは… ―――…おい、女。手を離せ」
「あっ、すみません」
手を引っ込めた私を、彼はまじまじと見下ろした。
「貴様……。もしや、舞と同じ時代から来た者か?」
「へっ?」
(とっさに助けたけど……この人、ものすごく変)
偉そうな口調、冷ややかな眼差し、時代劇でしか見たことのない甲冑…
しかも腰には、日本刀らしきものまで携えている。
「呆けた顔をするな。貴様の身なりからして、500年後の時代から来たのであろう。偶然とはいえ、俺の興を引いたこと、命を救ったことの次に褒めてやる。俺は安土城城主、尾張の大名……織田信長だ」
(おだ……のぶなが……?)