第3章 龍虎退治
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気を失った茜を光秀が抱きとめた数刻の後。
敵陣の後方では、戦場がまったく似合わない男がため息をついていた。
「ようやく決着か……。みんな、謙信の隊から伝令だよ。戦は引き分け。退却だ」
(今川家の家臣)「なんと口惜しい! 我らが前線に出ていればこんなことには……! 今頃は今川家を滅ぼした憎き信長を討ち取っていたに違いない! 世に聞こえた龍と虎も、弱腰になったものだ!」
気炎を上げる家臣たちを見回し、義元のため息がいっそう深くなる。
「これでいいんだよ。今回の戦は、言ってみれば小手調べ。謙信たちから信長への、果たし状みたいなものだから」
「はっ、知ったようなことをおっしゃる、我らが当主は。軍議に列席しようともなさらないのに。謙信殿に願い出て先陣を切る気概くらい見せてほしいものですな」
義元の言葉に今川の家臣たちが唇を噛みしめるように、自らの当主に不満をぶつける。