第3章 龍虎退治
–––とっさに見開いた瞳が、スローモーションですべてを捉えた。
引き金に、長い指がかかる。
音が弾け、銃口が火を噴く。
光秀さんの薄い唇が、ほんの一瞬、悲しげに歪む。
そして……
「ぐは……っ!」
敵将と思しき男が落馬して土埃に消え–––再び世界が動き出した。
「お館様!?」
敵兵たちは弓を放り出し、彼に駆け寄る。
地に沈んだ人影は、ピクリともしない。
「勝負あったな」
「敵将、討ち取ったり!」
光秀さんの家臣たちの歓声が上がり、波が引くように敵が逃げ去って……夕陽が、荒れ果てた野原を照らし出した。
「茜、立てるか?」
(あれ……。私、いつの間に……)
自分がへたりこんでいたことにさえ気づいていなかった。
「……茜」
光秀さんが腕を腰に回し私を立たせてくれる。
その仕草が思いのほか優しくて、なぜか泣きたくなった。
(光秀さんが撃たなければ、私たちは、矢の雨を浴びて死んでた。でも…、それは…、私が心のどこかで望んでいたこと……だけど……私……)
私ではない…、別の命が、今、目の前で散った。
「…………っ」
「茜……?」
光秀さんが私を呼ぶ声が微かに聞こえたけれど…、耐え難いほどの寒さに襲われ、視界が真っ暗になり–––
あとはもう、よく覚えていない。
…………