第3章 龍虎退治
翌日、心の準備もままならないまま、私は戦場の片隅に立っていた。
(生きて帰れるのかな……。それとも……ここで……)
「茜、まるで死に急ぐような顔をしているぞ?」
(っ……)
「足手纏いにならぬよう、後方支援に回ったのか?」
「私の考えを読むのはやめてもらえますか……?」
「お前こそ、考えをそのまま顔に出すのをやめてはどうだ?」
(そんなに顔に出てるかな……? ううん、この人の観察眼が異様に鋭いんだ)
光秀さんは私に語りかけながらも、火縄銃の手入れに余念がない。
銃身を扱う長い指先の動きは優雅で、色気さえ漂っている。
(武器じゃなくて宝物を手入れしてるみたい。戦の前なのに、リラックスしきってる……)
穴が開くほど見つめても、この人が何を考えているのかは読み取れそうにない。
「それにしても意外だったぞ。お前が自ら殿を志願するとは」
(しんがり……最後尾の隊のことかな)
「戦場で何の役にも立てない私が、前に出るわけにいきませんから。確実にみんなの足を引っ張るでしょうし……」
「では、此処はお前が足を引っ張ることはないと?」
「え…?だって、後から援護するための隊でしょう? ここまでは敵も攻め込んで来ませんよね?」
(ここに居れば、私に気を取られずにみんな戦えると思ったんだけど?)