第1章 プロローグ
だけど……
どんどん迫ってくる煙に、だんだんと呼吸が苦しくなって服の袖で口を覆う。
このまま死んでもいいと覚悟したはずなのに、身体は煙から逃れるよう懸命に自分を守ろうとする。
そんな矛盾にもどかしさすら感じながら、周りを見渡すと……
柱に持たれた人影が一つ
染みる目を擦って、よくよく凝らすと
甲冑を着た男性が柱にもたれて眠っている。
そして…
部屋の隅に、長い棒のようなものを手に男性に忍び寄る人影もあった。
(長い棒っていうより……刀!?)
煙の中を舞う火の粉が、切っ先をギラリと光らせる。
「危ない…!」
私が叫んだ瞬間、刃物を持った人影がはっとしたように足を止める。
眠っている男性に走り寄り揺さぶると、彼は眠たげにまぶたを持ち上げた。
「っ……? 誰だ、お前は」
「いいから!立って、今すぐ!」
(何が何だかわからないけれど逃げなきゃ! この人、殺されちゃう…っ)
「早くっ!」
「……」
私は彼の手を取り強く握って引き上げ、すぐさま駆けだした。