第2章 Kiss her hand
数日後–––
「どうかお気をつけてくださいね、茜様」
「まぁ、舞と違って茜なら大丈夫だとは思うけど。」
「うん、いつも行ってるお店に行くだけだから。舞ちゃんとも何度も出掛けてるし…。ありがとう、家康、三成くん」
「『心配してる』なんて一言も言ってないでしょ。迷子になられたら迷惑なだけ」
「気をつけるね。忠告をくれて助かるよ」
はいはい。と言わんばかりに笑顔を向けて答えると、家康がちょっと悔しそうに睨む。
(家康の天邪鬼にも慣れてきたな)
「……なんか、子供扱いされてる気がするんだけど。」
「さすがは信長様に見初められたお方です!」
(お使いくらいで、そんなたいそうなものじゃないけど……)
蘭丸くんの一件で、安土での暮らしは少し変わった。
秀吉さんは元々、優しかったけど更に何くれとなく世話を焼いてくれる。
織田軍に戻ることを許された蘭丸くんは、ちょくちょく部屋に遊びにきてくれ、舞ちゃんと三人、今ではすっかり仲良しだ。
織田軍のほかの武将たちともよく話すようになって、宴に呼んでもらったり、食事に誘われたりするうちに、みんなの人となりがだんだんわかってきた。
そして慣れない夕餉の時間も、到底、信じられないような現実も楽しめるくらいにはなった。