第2章 Kiss her hand
「お前は舞にも負けないほどのお人好しだが、心も読めない女だな。自分の命も顧みず、蘭丸の盾になるとは……」
(それって……)
「今の……褒めてはいませんよね?」
「よく気づいたな、褒めてやろう」
私だけじゃなく、舞ちゃんに対しても失礼だと思いながらも
言葉を返せないでいる私の頭を、形の良い手が、あやすようにひと撫でする。
(……!)
「あんまり揶揄わないでもらっていいですか。」
にやにや笑いから逃げるようにして、光秀さんに背を向ける。
早足で部屋に戻るまでずっと、鈴を転がすような笑い声が後ろから追いかけてくるような気がした。
…………
茜を見送ったあと、光秀の笑みに苦いものが混ざった。
「あれは、あいつの無垢からくるものなのか。それとも、何か別なものなのか……」
目をつむり、秀吉や蘭丸に向けた茜の和やかな笑顔を反芻(はんすう)する。
しかし、和やかな笑顔に感じる違和感の様なものが、何なのか光秀は考えた。
「……あいつは分かっているのだろうか。無垢とは時に愚かさの別名になると。それがこの乱世では、生き抜く枷になることを…。」
(しかし……茜からは、『生』ということに対して、執着が感じられないのはなぜか…。)
…………