第2章 Kiss her hand
「あとで改めて礼をさせてくれ。蘭丸、信長様の元へ行くぞ」
陽だまりのような笑顔を私に向けて、くしゃっと頭を撫でると、秀吉さんは蘭丸さんを連れて歩き出す。
「うん……。ええっと、茜様って言ったっけ。このご恩、絶対ぜったい忘れないから!」
振り向いた蘭丸さんが人懐こい笑顔を見せる
「気にしないで、蘭丸くん」
「–––命拾いしたな、蘭丸。ひとまずは、だが」
「…………」
光秀さんが意味ありげに微笑むと、蘭丸くんは無言で背を向け、秀吉さんの後を追って、信長様のいる天主へと去っていった
(男の子だけど…、可愛い子だな。どうか信長様に許してもらえますように……)
「祈っても意味などないぞ、茜」
「え……?」
「蘭丸の無事を願うなら、信長様に嘆願の文でもしたためたらどうだ? 効力があるかどうかは別だがな」
「あの、どうして私がお祈りしてるってわかったんですか……?」
「覚(さとり)というあやかしを知っているか? 人の心を読むことのできる鬼の一種だ」