第2章 Kiss her hand
「殺すのは待って! せめて信長様にひと目会わせて! 謝らせて……!」
悲痛な声を耳にした瞬間、私はとっさに両手を広げていた。
「………」
(蘭丸・秀吉)「!?」
「茜……?」
光秀さんの驚いたような声が聞こえたけれど、私は刀を構えた家臣をじっと見つめる。
(何があったかは分からないけど…、生きたいと思ってる人を放ってはおけない)
「自分の命を守ることが、そんなにいけないことですか?」
「高貴なご身分のお姫様にはおわかりにならんでしょうが、男が一度武士になったからには……」
「人の命に、身分も職業も性別も関係ないです。生きたいと思ってる人の命を容易く奪う気なら、私を斬ってからにしてください。」
(生きたくても生きられない人だっているんだから)
「茜、お前……」
「………」
目を丸くした秀吉さんと、黙って私を見つめる光秀さんが視界の端に入る。
それでも、私は家臣の人を見据えたまま蘭丸さんの前に立ち続けた。