第2章 Kiss her hand
「とにかく、だ。茜の料理は美味いってことだ。」
「適材適所ってことですね」
そう言って、秀吉さんに笑いかける
「お前も…、いつもそうやって笑っていればいいのにな」
「え…?」
いつもは舞ちゃんに向けられている、秀吉さんの優しい眼差しを向けられて、私は少しだけ動揺していると–––
「確かにお前のいう通りだな、茜。適材適所とは、よく言ったものだ。それにしても、小娘の世話焼きとは、秀吉も物好きだな。」
(……! 光秀さん)
先に歩いて行ってしまったはずの、光秀さんが笑いながら立っていた。
さっき、たわむれにキスされた手の甲がかすかに疼き、思わず身構える。
「別に世話を焼いてるわけじゃない。飯のお礼をしていただけだ。そんなことより……どうして昨日は軍議に顔を出さなかった、光秀」
「何、野暮用でな」
「信長様の招集よりも大事な用だって言うのか? どこへ行ってた?」
「それを聞けば野暮になるから『野暮用』と言うんだ」
「お前……っ」
ピク、と眉が動いたかと思うと、秀吉さんは光秀さんの胸ぐらを掴み上げた。
「ちょ、ちょっと、秀吉さん……!? 落ち着いてください!」
私の制止なんて聞こえていないかのように、秀吉さんは光秀さんを睨みつけている。
光秀さんは動じもせずに、黙って秀吉さんに冷ややかな視線を返す。
(初めて会った時も感じたけど、このふたり、相性合わないの……?あ…、たしか史実でも……)
明智光秀は織田信長を裏切り本能寺の変を起こした張本人、豊臣秀吉は主君の仇討ちを果たした人だ。
(とりあえず、喧嘩を止めないと)
私が二人の間に割って入ったところで、争う人の怒鳴り声が廊下に響いた。