第2章 Kiss her hand
(珍しい…。今日は光秀さん、居るんだ。)
広間に揃う大名の中でも、会うことがなかった武将、明智光秀。
よく分からないけれど、仕事が忙しい人なのか、あの日以来初めて見る。
皆での夕餉を済ませ、各自、部屋にもどるため広間を出るの私も広間を出た。
「茜。」
不意にかけられた声に振り返る。
(……明智光秀。)
「あの日以来だな。」
「はい。」
「あの時は申し訳なかったな。まさかお前に庇い立てされるとは。」
「いえ…。本当のことを言ったまでですので、お気になさらないでください」
(元の歴史だと、この人が本能寺の変の犯人なんだよね。信長様を襲ったのは別の人だったみたいだけど、やっぱり謀反を企んでるのかな…)
何気なく浮かんだ歴史に、私の表情が固くなる。
「そんなに強く握ったら怪我をするぞ」
(え?)
無自覚に握りしめていた私の手を、光秀さんが掴んで引き寄せる。
手の甲にキスをされ、私は慌てて飛びのいた。