第2章 Kiss her hand
「茜様は包丁捌きが本当、お上手ですねぇ。」
女中さんが私の手捌きを見て、感心したように頷く。
「そうですか?ありがとうございます。」
「お姫様ですのに、敬服致しますわ。母君様の教えでございますか?」
「……まぁ…。そんなところですか…ね?」
「これでしたら、どこに嫁がれても殿方は茜様に惚れ込んでしまうでしょうね。」
女中さんに笑いかけられて、その問いかけに私は笑顔だけで答えた。
そんなたわいもない会話の後、私はただひたすら大根と格闘する。
大根を切りながら、幸せだった僅かな時間を思い出した。
母親代わりだった優しい園長に初めて料理を教えて貰ったこと。
大好きな人と並んでキッチンに立っていた自分……
だけど……その大切な人たちは、この世にはもう居ない。
黙々と大根を切り、皮を剥いていく。
私がここに連れて来られて、見つけた仕事。
余計なことを考えなくてすむ、私にとってはとても都合のいい仕事だった。