第2章 Kiss her hand
「じゃあ……、いつか、茜ちゃんの話も聞かせてね?」
舞ちゃんに、少しだけ寂しそうに笑いかけられて、私は申し訳なさそうに、小さくコクンと頷いた。
「あ、そういえば、政宗から聞いたんだけどねー……」
私が頷いたのを見ると、再び舞ちゃんはそれ以上何も言わずに色んな話を私にしてくれる。
無理に私のことを詮索しない舞ちゃん。
それが、私には有り難くて、彼女との時間は居心地が良かった。
現代でも舞ちゃんみたいな友達が居たら、もう少し違った人生だったのかな?という思いが一瞬、頭を掠めてしまう。
一刻(いっとき)ほど、舞ちゃんの話しに付き合うと、そろそろ私の仕事の時間だろうから、と気を利かせた彼女は部屋を出て行った。
舞ちゃんが帰ると私は小袖に襷を器用に掛け、急ぎ足でお城の台所へ向かった。
「今日の献立は何ですか?」
「茜様」
台所にいる少しばかし、歳のいった女中さんに声をかけると、彼女は大根片手に私に笑顔を向けてくれた。
「今日は、大根の煮物と葉のお味噌汁、あとは焼き魚ですね」
「では、私は大根の皮を剥きますね。」
私は大根を一本取ると、手早く切って桂むきをしてゆく。
現代で見慣れた大根とは違って、細い大根。薄く皮を剥かないと、煮物にする部分が減ってしまう。
皮はざるに置き、後ほど天日干しで切り干し大根にするらしい。