第4章 とろける極上ローストビーフ 謙信特製梅肉ソースがけ
「…あっ…ん、待って!」
「っ、待たない」
「ちがっ…手、解いてっ、ください……っ!」
そう叫んだ瞬間、律動がピタリと止まる。
謙信様は、はっとしたように抱きしめる腕を緩めると私を覗き込むようにして、すぐに憂いの表情を浮かべた。
「痛むか?……わかった、今すぐ解いてやろう」
いつの間にか引き抜かれてしまっていた熱を寂しく思っているうちに、しゅるりと拘束が解かれ、自由になった私の手を取り、謙信様が痛まし気に眉を寄せる。
それが何故か愛おしく思えて、束の間の寂しさなど忘れてしまうほどに胸が満たされていくのを感じて、私は思わず笑みを零した。
「痛かったわけじゃないので、心配しなくても大丈夫です。……ただ、手を縛られたままじゃ謙信様を抱きしめられないから……。私も、謙信様を抱きしめたいです」
込み上げる想いを言葉にして伝えれば、憂い顔が一瞬にして消え失せる。
その代わりに、すっと細められた瞳が熱を灯し、その視線に見つめられただけで心が火傷しそうだった。
「今宵のお前は憎たらしいほど愛らしいな……。お陰で俺の気が狂いそうだ……どうしてくれる?」
「っ…」
そんなの、決まってる。
その狂おしい愛をひとつ残らず全部注いで欲しい。
私だって気が狂いそうなくらい謙信様が愛おしくて、どうしたらいいかわからない。
今夜この身体を慰めるには、ただ愛を注いでくれるだけじゃとても足りないから…
「めちゃくちゃにして…」
恥ずかしげもなく吐き出した私の言葉に、謙信様は切なげに息を洩らした。
「〇〇……愛らしいのもいい加減にしておけ。……さもなくば、お前が壊れるまで抱き潰すぞ」
「謙信様になら、壊されてもいい…」
本気でそう思った。
だからだろう──
「それ以上、その口から愛らしい言葉を紡いでくれるな──抱き潰すどころではない……抱き殺しそうだ……」
──そんな物騒な物言いとは裏腹に、謙信様が幸せそうに微笑んだのは。