第1章 完熟トマトとヒヨコ豆の光秀煮込み 北風と太陽仕立て
味なんてわからないくせに。
ひとの股座(またぐら)に顔を埋め、甘い、甘い、と喉を鳴らすのは──
意地悪な私の愛しいひと。
初めて見た。
喰うことに興味のないこのひとが、こんなにおいしそうに何かを口に含む姿を。
それを座って膝を立て広げた足の間に見下ろす私は、舌先が勃ち上がった豆粒の先端を掠める度、鼻にかかった甘ったるい声を上げていた。
「……んぁっ……んっ……」
それに気を良くしたらしい光秀さんが、さらに舌先で小刻みに弾くようにするからもう止まらない。
「んぁっ、やっ、あぁっ、そんなにしちゃ、だめぇぇ…」
私が声を上げるたび、意地悪そうに口の端を釣り上げる伏し目がちなその表情は、光秀さんの持つ妖艶な色気を一層際立たせていて、ただでさえ見ていられないというのに、そこへ皮肉るような妖しい流し目をくれるから…
たまったもんじゃない。
それが悔しくて、挑発するようなその瞳と真っ向勝負してみるけれど…
二秒ともたなかった。
そうして目を背けたならば──
「──ひゃあっ!」
与えられるのは淫らな罰。
皮の剥けた豆粒をキツく吸い上げられ、悲鳴を上げた私に反して、憎たらしいほど落ちつき払った声がその行いを窘める。
「目を離すな、と言っただろう?」
半端じゃない敗北感を感じながらも、やむを得ず視線を戻すと、こちらを見上げてくる満足げな微笑が恨めしく思えて唇を噛んだ。
そんな私のことなど光秀さんは素知らぬ顔で、すぐにまたその行為を始める。
「やっ…だめっ…」
ほんの少し舌先が触れただけで全身がゾワリと粟立つのが堪えられなくて、なけなしの力で足掻いてみるけれど、両脚を抱え込む逞しい腕が快楽から逃げることを許さない。
「…もぅ…ムリ…」
「嘘を言え。お前のここはおかわりが欲しいと言っているぞ?」
「っ、そんなこと…」
「ない、か?……なら自分で確かめてみるといい」
そう言うと、光秀さんは私の手を取り自分の方へと引き寄せた。