第9章 婀娜な紅葉に移り香を~ノーマルート(共通)
「お誕生日おめでとうございます!」
「………………は?」
目の前の〇〇の様子から想像するにはあまりにも突飛すぎる言葉に、思わず間抜けな声が出た。
しかし、〇〇はそんな俺のことは気にも留めず、至って真剣だった。
「そう言えばまだ言ってなかったって日付けが変わっちゃうって急いで戻ってきたんですけど間に合いました!?」
必至の形相でひと息に言葉を並べる〇〇に、俺は堪らず破顔した。
「……ふっ、ははは……」
「っ!なんで笑うんですか…」
「そんなことを言うために…ククっ…尻に火でも付いたかのように駆け戻ってきたのか」
「…ひどい…」
「悪い悪い…」
頬を膨らませる〇〇の背をあやすように撫でながら、何とも愉快な心地になった。
口では揶揄したものの思わず声を上げて笑ったのは、〇〇の奇想天外な言動にではなく、その健気な気持ちが嬉しくて堪らなかったからだ。
我ながら、なかなか見ない面持ちをしていたと思う。
その相好を崩さぬまま素直な気持ちを口にした。
「ありがとう、〇〇」
そう言いながら頭を撫でてやると、〇〇は嬉しそうにはにかんで、次にはっとして顔を上げた。
「そうだ!ちょっと待っててください…」
そう言って、小走りに部屋の隅へ向かうと、〇〇は風呂敷包みを大事そうに抱えてきて、俺の隣に並んで座った。
「改めて……お誕生日おめでとうございます、光秀さん。……これ、私からのお誕生日プレゼントです」
風呂敷の結び目を解いて取り出した生地を広げると、それを〇〇が俺の肩にかける。
枇杷(びわ)色の生地で作られたそれは、飾り気こそ無いものの、その色合いからも暖かさが感じられ、厚く織られた艶のある生地は上等なものだと分かる。
さらに、細部の仕上がりや縫い目の繊細さを見ても、〇〇が精魂込めて縫い上げたものだと確かに分かったのだが……
「これは……羽織か?」
思わずそう訊ねたのは、〇〇が肩にかけてくれた羽織と思しきそれは、生地の余りが酷く、とても俺の体には合っていないものだったからだ。