第9章 婀娜な紅葉に移り香を~ノーマルート(共通)
澄んだ夜空に月が爛々と輝く夜半頃──
温泉で汗を流しひとり戻った部屋で、窓辺に転がっていたままの小袋を、差し込む月光が照らしていた。
九兵衛からの文で受けた報告によると、"えびこう"はお守りとして大いに効力を発揮したようだった。
窓辺に腰を下ろし、拾い上げた小袋にその労をねぎらった。
〇〇には混浴はふられてしまった。
今しがた、身体の隅々まで暴いたばかりだというのに、風呂に一緒に入るのは恥ずかしいとは理解に苦しむ。
だが、こうして連れ合いを待ちながら想いを馳せる、という楽しみもあることを知った今では、それもまたいい時間だった。
──そんな穏やかな時に水を差すよな…
秋の夜長を鳴き通す虫の声に交じって、微かに耳に届く、何かの足音…
窓から吹き込む秋の夜風を冷たく感じながら、感覚を研ぎ澄ませる。
それは次第にはっきりと聞こえるようになり、こちらに向かっているのだと分かった。
危機迫るようなその足音に、胸騒ぎを覚える。
(……まさか、刺客か)
万一そのようなことがないよう、今日この日まで〇〇と過ごす時間を削ってまで手を回してきたというのに…
考え得る最悪の事態を覚悟しながら、遂に襖の向こうに迫った荒々しい足音に身構えた刹那──
──スパンッ──
勢いよく開いた襖から部屋に駆け込んできたのは、〇〇だった。
「わっ…!」
勢い余って足がもつれ、そのまま俺の胸へと飛び込んできた身を抱き止めると、縋るようにして見上げる〇〇の強張った顔つきが徒事(ただごと)ではないことを知らせる。
肩で息をする〇〇の背を擦ってやりながら、矢継ぎ早に問いかけた。
「〇〇っ!何があった!?」
〇〇は必至に俺を見つめ、唇を震わせながら声を絞り出す。
「っ光秀、っさん………」
どんな悪報が告げられるかと、息を呑みながら〇〇の言葉を待った。
そして、息も絶え絶えに〇〇が告げたのは──