第1章 君が教えてくれたこと
そう言って、光秀さんは態とらしく、私に憂いの表情を見せる。
光秀さんのペースに陥れられているのがわかるけれど、光秀さんが言うことも、ごもっともな気がして、言い返せないでいると、視線に答えを催促される。
「……そんな目で、見ないでください…」
「では、どんな目で見ればいい」
「……目……閉じてください…」
私がそう言うと、光秀さんは素直に長い睫毛を伏せた。
目一杯、背伸びをして、光秀さんの形の良い唇に、自分の唇を押し当てる。
数秒の後、唇を離すと…
「……それだけか」
挑発する言葉に、恥ずかしいのと悔しい気持ちが混ざり合って、半分やけくそで光秀さんの首に抱きついて引き寄せ、もう一度口づける。
誘うように薄く開いた唇へ、自ら口づけを深めた。
そうして、桜の花びらが舞う、温かな春の日差しの中で…
私たちは、お餅よりも柔らかく甘い口づけを交わし合った──
おわり。
2020.4.6