第6章 想ひ想はれ常しへに、夏。
からかわれるのを覚悟していたところに、意外とあっさり身を引いた光秀さんに肩透かしを食らった気分になって、不覚にも物足りなさを感じてしまう。
(……いや、何で?何で私、ちょっとガッカリしてるの!?)
自分の気持ちに動揺していると、光秀さんが視線を上げたたまま、ぽつりと呟く。
「……五百年後のこの町は、どうなっているのだろうな」
「……?」
どうして突然光秀さんがそんなことを言ったのか理由は分からなかったけれど、その答えはあまりにも簡単だったから、私はすぐに答えを返した。
「いい町ですよ。五百年後も、その先も、ずっと…」
「……そうか」
そう小さく呟いた光秀さんはやっぱり嬉しそうで、頭上で花火が開くたび明るく照らされて見えるその横顔に見惚れながら、私の中にある想いが浮かぶ。
(五百年後のこの町を光秀さんに見せてあげられたら……)
もし、光秀さんを五百年後の福知山に連れて行けたなら…
その時、光秀さんはどんな顔をするだろう…
そんなもしもの出来事をひとり想像していると──
突然、光秀さんが何かを思い出したように小さく息を吐く。
「それにしても──」
ずっと夜空に向けられていた視線が不意に私に向いたかと思うと、流れるように耳許へと寄せられた唇が、妖しく秘密を告げるように囁く。
「さっきの口づけは、なかなかに刺激的だったぞ」
完全に油断していたところに、耳から放り込まれた言葉が頭の中で花火の如く爆ぜて くらり とした。
けれど、それはひと際大きく轟いた花火の爆音にかまけて聞こえないフリをして──
おわり。
2020.8.29