第6章 想ひ想はれ常しへに、夏。
本日は無礼講。
老若男女、身分問わず皆、桔梗紋の浴衣を着てお祭りを楽しむ日。
日が傾き始めた頃、私もお揃いの浴衣を着せてもらい、賑わう町へと繰り出した。
福智山。
一度連れて行きたいと、光秀さんが言っていた場所。
けれど──
今日も、もれなく忙しい光秀さんは朝早く仕事に出かけたまま。
(祭りが始まるまでは帰るって言ってたけど…)
夜の帳が下り、お囃子が鳴り始めても、光秀さんの帰りはまだだった。
恋しいその姿を探し、辺りをきょろきょろ見回していると、よく知った顔を見つける。
「〇〇様!」
人好きのする笑顔で、お揃いの浴衣を着た九兵衛さんがこちらに向かってくる。
(そうだ。光秀さんのこと、何か報せが入っていないか聞いてみようかな…)
そう思いながら人混みを縫って近づいていくと、私の思惑を察したのか、九兵衛さんが先に口を開く。
「直にお戻りになられるでしょう」
「……あ…はい…」
九兵衛さんの開口一番の台詞に、思わず苦笑いが零れる。
(さすが光秀さんの家臣……私の考えなんてお見通しだった…)
「光秀様がお戻りになるまでお相手させていただきます。……私では力不足かもしれませんが」
「いえ!そんなことないです!」
光秀さんから、帰りが遅くなったときは私のお守(も)りをするように言いつけられていたらしい。
──九兵衛さんと目抜き通りを歩きながら、目に映る光景に笑みが浮かぶ。
露店に目を輝かせる子どもたち、男女が手を繋ぎ合って仲睦まじく往来をいく姿…
長閑で幸せな光景に、ここが戦国時代だということを一瞬忘れてしまいそうになる。
「〇〇様は福智山は初めてでしたね。いかがです?安土も良いところですが、ここも良いところでしょう?」
「はい。町の雰囲気も温かくて、初めて来たのに、とても居心地がいいです」
「それはよかった。〇〇様にそう言っていただければ、光秀様もお喜びになられるでしょう」
(光秀さんが、喜ぶ…?)