第29章 思ひ益すとも
先月のバレンタインでは、澄晴くんから花束のプレゼントをもらったので、今月のホワイトデーは私がプレゼントする番。澄晴くんのリクエストで、家で料理を振る舞うことになっている……のだが、
寝てる。
戦闘員の澄晴くんとエンジニアの私。ホワイトデー当日は予定が合わなくて、やっと今日、私は日中のみボーダー、澄晴くんは非番ということで、夕方時間が合った。
そんなわけで急いで家に帰ってきたら、もう彼は来ていた。澄晴くんは、床に座って、ベッドに寄りかかって寝ている。
そっと顔を覗く……あどけない寝顔だなあ。
起こしたくなくて、しばらく見ているだけ。だけのつもりだったんだけどな。ああ、大好きだな。愛おしいな。心臓がキュッとして、少し苦しくて、熱くなる。見ているだけでは飽き足りない。……触れたい。
髪をそっと撫でると、ふわふわして気持ちいい。もう少しだけ。頬を撫でる。もう少し、もう少しだけ。唇を頬に寄せた。
「そこは口でしょ」
ビクッとして急いで距離を取ろうとしたが遅かった。右手は握られ、後頭部も押さえられて動けない。
「いつから起きてたの?」
「うーん。ついさっきだよ。髪を撫でてるとき。キスしてくれるかなーって期待してたんだけど」
「ひゃあっ」
抱き上げられ、ベッドの上に寝かされる。起き上がろうとしたら、両肩を押されて戻された。そこに彼が覆い被さってくる。
彼の手が髪に触れて、頬を滑っていく、あ、これさっき私がしたことと同じだ。
「今、同じ気持ちだと思うんだ」
「えっ……!?」
彼が私を見つめている。目を離せない。離さない。
「葉瑠」
それは熱のこもった目。
「好きだよ」
指が絡む。彼の指輪は、高校を卒業してから、常にその指で光るようになった。
「私も……好き。大好き」
「葉瑠、可愛い」
キスが降ってくる。体を彼の手が滑って、触れた場所から熱を持つ。もっと、もっと、澄晴くんの近くにいたい。もっと、もっとと、欲が止まらない。
ご飯は後で、だね。
二人で同じこと考えてるねって一緒に笑って、お互いを抱き寄せキスをした。
わが命の全けむかぎり忘れめやいや日に異には思ひ益すとも(万葉集595)