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【ワールドトリガー】犬飼澄晴 短編集

第28章 うつせみの人目を繁み ※本誌ネタバレ注意


コミック21巻後の内容、ジャンプSQ本誌ネタバレの内容を含みます。ご注意ください。



『ランク戦お疲れ様!』

葉瑠の声が勢いよく流れてくる。
ランク戦の日の夜は、よく電話する。まずは葉瑠が感想を、というか俺を称える内容を興奮気味に一気に話す。良かった、格好良かった、と言い過ぎなくらいなので思わず苦笑してしまう。

『前半の戦況の把握にコントロール!さすが澄晴くんだね!今回MVPものでは!?』

さすがにMVPは玉狛でしょ。でも悪い気はしない。それに玉狛がすごかったことくらい、葉瑠は当然わかってる。
次は俺の番。隊の反省会はもう済んでいるから、それでも言いたくなったことだけ。

「メガネくんにはやられたな」

最終戦。玉狛第二に負けた。こちらの調子は悪くなかったが、更に上をいかれた。勝負を決めるのは戦力と戦略と運、とは太刀川さんの言葉だが、玉狛第二は戦力も戦略も上げてきた。あと一つの運で勝ち負けどちらにも転べるくらいに。

「ヒュースくんのバイパーは予想できた。でもメガネくんのハウンドは考えもしなかったな」

メガネくんの追尾性能を切ったハウンドをシールドで受けていながら、いつものアステロイドだと思い込んだ。トリオンの少なさを逆手にとるとか、聞いたことがない。メガネくん何者だよ。

「雨取ちゃんも、初めて人を撃つのにアイビスを使うとか、たいした度胸だね」

葉瑠は相づちを打つだけ。多分電話の向こう側で、優しい顔をしてる。こっちは言いたいだけ言って、向こうはそれを全部聞いてくれる安心感。沈黙ですら心地いい。
俺はかなりコミュ力が高い方だ。でも、当然ながら話しやすい相手とそうじゃない相手がいる。どちらでもそれなりに会話ができる自信があるが、やはり気は使うものだ。
葉瑠とは、不思議と出会ったころから気を使わず楽に話ができた。彼女との会話は心地よくて好きだ。

うん。うん。という葉瑠の声を聞いていたら、ランク戦で高ぶった気持ちがやっと落ち着いてきた。耳から聞こえる声に、彼女をより感じる。少し鼓動が速くなった。



『「おやすみ』」

優しくて甘い声が闇に溶けていく。その余韻を感じながら静かに目を閉じた。











うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも(万葉集597)
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