第27章 5/1
犬飼高2のときの誕生日
まだ付き合ってない。
気分転換に軽食を買って開発室に戻る途中、前から制服姿の学生が二人やってきた。あれは、六頴館の制服だから私の後輩だ。とは言っても、高校に通っていたのは、もう2年も前だからなあ。さて、誰だろう。弓場ちゃんではないな。あれは、そうだ。犬飼くんと荒船くんだ。
「こんにちは」
こちらに気付いた犬飼くんが挨拶してくれた。以前、トリガーセット構成を二宮隊の隊室で一緒に考えたから、私のことを覚えていたようだ。
「こんにちは。犬飼くん、荒船くん。今、学校終わりなんだね」
「はい。お互い腹へったし、ラウンジ行って何か食おうと思って」
「ふふっ。お疲れ様」
そのまますれ違って別れる、はずだった。
ちょうど、犬飼くんの肩と私の肩が並んだとき、大きな音が鳴ったものだから、ビクッとして止まってしまった。
音が聞こえた方、犬飼くんを見ると端末を制服のポケットから取り出している。どうやら彼の端末の通知音だったらしい。
端末を見た犬飼くんは眉をひそめた。
「二宮さんから呼び出し。すぐ行かないと駄目みたいだ」
「しょうがねーな。じゃあな」
荒船くんは、私の方を見て軽く会釈すると、ひとりラウンジへと歩いていった。
振り返って見ると、犬飼くんは端末をポケットの中に戻して動き出すところだ。おや、そういえば彼はお腹が空いているのではなかったか。
「ねえ、犬飼くん!これホットドッグなんだけどあげる。隊室で食べなよ」
「え、いいの?ありがとう!」
彼の目が一瞬キラリと光った気がする。ニコっと微笑んで、そのままホットドッグを持って隊室へと駆けていった。
その日が、犬飼くんの誕生日で、二宮からの呼び出しは、隊員みんなで彼の誕生日を祝うためのものだったと知ったのは、しばらく後のことだった。
そして、今。
「だから、葉瑠から初めてもらったプレゼントはホットドッグなんだよ」
「え。あれプレゼントのうちに入るの……」
「入る入る。びっくりしたよ。誕生日に突然好物のホットドッグをもらえたから、嬉しかったんだ。葉瑠は本当に俺を甘やかすのが上手いね」
「……じゃあ、今日も甘やかしてあげよう!はい。あーん」
「あーん」
手持ちのホットドッグを彼の口に押し込んだ。
Happy birthday!!!