第22章 うづの御手もちかき撫でぞ
対ガロプラ・ロドクルーンの対策が終わった。冬島さんは、なかなか人使いが荒い。戦力の一人として、頼ってもらえるのは嬉しいのだけど。疲れきった体を引きずって、何とか廊下の自販機まで来れた。コーヒーを買って、横のベンチに座る。疲れたなあ。しばらく動きたくない。
「葉瑠さん」
「!犬飼くん」
全然気づかなかった。
少し離れたところには、二宮隊のみんなが話しているのが見える。彼はわざわざ私のところまで来てくれたらしい。
「聞いた?また近界民の襲撃がありそうだって」
「聞いたよ。さっきまでその対策してたの」
「ぐったりじゃん。まだやるの?休憩?」
「ううん、終わったところ。でも疲れちゃって、家に帰るのがしんどいなと思って、とりあえずここで休んでたの」
「そっか」
彼は自販機に向き合うと、ボタンを押した。ガコンと音がして、落ちた缶を取り出す。
「カフェインもいいけど、糖分補給も大事だよ」
持っていたのは、温かくてあまーいココア。それを私の隣に置く。
「じゃあ、こっからは俺達ががんばるからさ」
はい、交代。タッチ
顔の高さまで両手を挙げて合わせる。至近距離に彼の顔があった。
「俺に任せといて」
目が合う。いつもの、笑ってる、綺麗な目。
「だからココア飲んだら、すぐに家に帰ること。わかった?」
「……うん」
頭をひと撫でされる。二宮達の元へ戻っていくのをぼーっと見送った。
思わず声が漏れる。
「なんて頼もしい」
隊員としても。彼氏としても。
これじゃ、早く家に帰って休むしかない。
食す国の 遠の朝廷に 汝らが かく罷りなば 平けく 我れは遊ばむ 手抱きて 我れはいまさむ 天皇我れ うづの御手もち かき撫でぞ ねぎたまふ うち撫でぞ ねぎたまふ 帰り来む日 相飲まむ酒ぞ この豊御酒は(万葉集973)