第17章 物な思ひそ
「その指輪」
「うん?」
「ずっと付けてくれてるよね」
「もちろん。当たり前じゃない」
クリスマスプレゼントでもらった指輪。あの日以来、右手の薬指から外れたことはない。澄晴くんが指輪をクイクイと触ってきてくすぐったい。
こちらから指を絡めると、その手が引き寄せられた。指に口づけられる。
「……っ」
薬指の指輪、指先、爪、中指、啄むように唇を落とされる。時折ペロリと舐められてゾクゾクする。
「す……みはる、くん」
息がしづらくて苦しい。声が掠れてしまった。
「ねえ、感じた?」
気付いたときには、彼の顔が触れるくらい近くにあって、答える前に口を塞がれた。自分より骨ばった手が、髪にそっと指を通す。何度も何度も繰り返されるそれは、とても優しい。なのに口づけはどんどん深く激しくなっていって、そのギャップにどうにかなってしまいそう。
それでも、ふと感じた違和感。ほんの僅かなものだけど、澄晴くんがいつもと違う、ような。いつもより甘えたなような。
近く、近界からのかなり大規模な襲撃が予想されるらしい。これでもボーダー歴は長い方だし、迅のSEの凄さを知っているし、隊員たちがどれだけ頼りになるかも知っている。それでも不安が無いと言えば嘘になる。澄晴くんも、不安、なのだろうか?
「考え事?余裕だね。でも今からは、見るのも、考えるのも、俺だけだよ」
どちらにせよ、今はこのまま、彼に呑まれるだけ。
我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも我がなけなくに(万葉集506)