第16章 二宮隊にて
まだ付き合いたてのころ。犬飼高3のエイプリルフールのときの話。辻視点
防衛任務のため、二宮隊室には全員が集まっていた。今日は4月1日。新年度が始まる日、エイプリルフール。隊室に来るまでに会った同級生は、俺を驚かすための嘘を言って楽しんでいた。米屋とか、出水とか。なかなか怒涛の勢いだったので、正直、少し疲れた。
「エイプリルフールだからって、わざわざ嘘つかなくてもいいのに」
思わず呟いてしまったが、鳩原先輩が、そうだねって言ってくれた。
「そんなみんなに報告があります!」
犬飼先輩だ。片手に端末を持ち、もう片方を挙手している。
「実は、彼女ができましたーっ!」
どんどんぱふぱふーと効果音が聞こえるようだ。
「このタイミングで言うってことは、嘘だね」
ひゃみさんがバッサリと言い捨てる。
「ちょっと待って!最後まで聞いて!その彼女は!葉瑠さんでーす」
葉瑠さんといえば、時々会うエンジニアだ。犬飼先輩はかなり高いテンションだし、やはりこれは
「エイプリルフールですね」
「そうか。今日は4月1日だったな」
二宮さんが顔を上げた。
「ええー。ドライ過ぎる反応」
残念そうな顔から一転、犬飼先輩はニヤリと笑った
「……と思うじゃん?」
米屋のお決まりのセリフを言ったとき、隊室のドアが開く。
「失礼しまー……ってわあっ!!」
犬飼先輩が入ってきた葉瑠さんの肩を抱いて引き寄せる。
「俺たち付き合ってるよ。マジで。ね?葉瑠さん」
「え?あの、……はい。」
沈黙が辺りを包んだ。
「ええええええええっ!!?」
「へえー。おめでとう。どっちから?」
「俺」
ひゃみさんは驚いているけれど興味津々、鳩原先輩は淡々と状況を受け入れている。すごいな。俺は追い付かない頭で周りを見るのが精一杯だ。あれ?二宮さんは……
ガタッガタタタッ
「本当か?」
「本当」
椅子から立ち上がって葉瑠さんを睨むように見る二宮さんと、無表情で返事する葉瑠さん。二宮さんの椅子が転がっている。珍しい。
ボコッ
「本当か?」
「本当だって」
二宮さんしっかり。同じことを二回聞いているし、今度は床に置いていた紙袋を踏んでいる。らしくない。あ、葉瑠さんは耳が赤い。照れていたのか。
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