第11章 大学にて
犬飼出ません。
大学の食堂で、偶然会った加古望と昼食を取っていると、二宮が来た。
「やっほー、二宮。はいこれ1限のプリントね」
「ああ、助かった」
「葉瑠さんと二宮くん、授業一緒だったの?」
「共通教養科目でたまたまね。ボーダー関連で欠席してるときは、私がプリント取っといてるの」
実は今年こそ1つだが、昨年は3つも被っていた。その頃から協力関係にある。
「そうだ二宮、おててをポケットに入れてると転んじゃうよ。もしランク戦で転んだら、恥ずかしいじゃ済まないよ」
「転ばない」
「まあ今さらと言えば、今さらよね」
「小さい頃、私自身おばあちゃんからよく言われたから、気になっちゃうんだよね」
「おばあちゃんって、ふふ。だから、葉瑠さん、『おてて』なんて言ったのね」
そっぽを向いて、ため息をついた二宮が、ふと顔をこちらに向けた。
「ところで、葉瑠さんは、あいつにちゃんと構っているのか」
「え?……犬飼くんにってこと?え、うん。できてると思う」
「そうか」
じゃあ、と彼は出口へ歩いていった。それを見送り、勢いよく望の方を向く。
「何あれ!?私がちゃんと犬飼くんの彼女やってるのか、って確認したんだよね?犬飼くんを心配して!きゃー!親心?隊長心?かわいいねえ」
「かわいいかは置いておいて……突然すぎるあの一言を、そう解釈できる葉瑠さんって、意外と二宮くんを理解してるわよねー。でも、私もそう言ったんだと思うわ」
「犬飼くんがいる二宮隊は、つい見ちゃうんだよね。仲良しオーラが出てるわけじゃないけど、犬飼くんと辻くんは二宮をすごく信頼しているし、二宮も絶対自慢の部下だと思ってるよね!氷見ちゃんは、ランク戦の映像で見えないからわからないけど、きっといい関係だよね。……鳩原ちゃんがいなくなって、どうなるかと思ったけど、大丈夫そうで良かったよー」
「葉瑠さん、それ彼女っていうか二宮隊のファンみたい」
後日行われたランク戦では、二宮が最初の10分ほど、思い出したように、こっそりポケットから手を出し入れする様子が見られた。多少気にしてくれていたらしい。10分でいつものポケットインに戻ったけど。
試合後、犬飼くんから連絡が来て、『二宮さんから伝言。余計なお世話だ。ってさ。何のこと?』とのことだった。