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【ワールドトリガー】犬飼澄晴 短編集

第10章 いつもいつも来ませ


「ねえ、何であそこに居たの?」

「今日は、両親の結婚記念日でさ。姉ちゃんたちがお祝いしようって言って、準備することになって、俺は花束買ってこいって言われたんだよ。それで花束を買ったんだけどさ、早く帰ろうと思って近道したわけ。それで警戒区域の近くを通ってたら、化け物がこっちに向かってくるから、逃げたんだよ。まあ、すぐ時任さんがやっつけてくれて助かったってわけ」

「……やっぱり犬飼くんを狙っていたのか。トリオン量が多いのかな?」

「なに?」

「何でもない。助けられて良かった。ありがとう」

「えっ、お礼言わないといけないのは俺の方だよ。言うの遅くなってすみません。助けてくれてありがとうございました!」

犬飼くんはぺこりとお辞儀してくれたけど、本当に、私がお礼したかったのだ。戦績不振で落ち込んで、忘れていたけれど、私はボーダーでこの街を守る力になりたかったんだって思い出した。戦闘員として続けるイメージは、やはり持てないけれど、他にも方法があるはず。エンジニアって私でもなれるかな。本当に、辞める前に気付いて良かった。犬飼くんのお陰だ。

「どういたしまして」

「俺さ、ボーダーに入りたいって思ってるんだよね」

「えっそうなの?」

「うん。だから、入る前に知り合いが出来てラッキー!」

「うーん。残念だけど、犬飼くんは、ここ数時間の記憶をなくしちゃうから、覚えてないよ」

「あー、そうか。時任さんのこと忘れちゃうのか。……じゃあ、お礼は今ちゃんとしなきゃね」

犬飼くんは、紙袋の中をがさごそ漁ると、花束から花を一輪取り出した。

「改めて助けてくれてありがとう。これはお礼。俺、前からボーダーの試験を受けようと思っていたから、それは忘れないと思う。いつかボーダーに入ったら、よろしく!」

部屋のドアが開いた。準備ができたようだ。ここでお別れだ。
差し出された花を受け取る。

「ありがとう。私は忘れないよ。楽しみに待ってるね」


翌日、私は寺島にエンジニアについて話を聞くべくボーダー本部を走っていた。もう気持ちは晴れやかだった。
数ヶ月後、新入隊員の中に犬飼くんをを見つけた。話しかけこそしなかったが、昇級して二宮隊に入ったことはチェックしていた。
あのときもらった花は、押し花にして、しおりを作った。覚えているのは私だけ。大事な、思い出。
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