第1章 暗闇
夜の静寂だけが私が女として生きていられる時間だった。
陽の元で女はこの時代弱者でしかない。
守られ、逃げまどい、泣く弱い生き物。
そう思われる事も、自身で自覚してしまう事も嫌だった。
男子家系で生まれたのに、自分は女な事に生まれたことを強く呪った。
だから私は男と偽る。
戦に出れば、兄弟よりも、同い年で男の忍びよりも弱いことを自覚してしまう。
散ってしまう命ならば戦場で悔いなく死ぬことがわたしにとっての救いなではないかと思った。
だからがむしゃらに戦場をかけめぐった。
成長に伴い膨らむ胸をさらしできつく締め付け、ごつくて重い甲冑を身に纏う。腰には愛刀を帯刀し、忍の必需品を携帯する。
髪は女と悟られぬように短く整えてある。せめてもの自分への情けで髪を手櫛で梳かしてやる。
鏡で戦時前に必ず自分を男にする。顔つき、しぐさ。
崇高なる我が一族に恥をかかせないように、我が家に女児がいると悟られないように。
家族の、兄たちの誰よりも早く家を出る。
女性としての成長が日に日にみられてから、どうも兄たちと顔を合わせるのが億劫になってしまって、今では事務的な会話しかしない。
母もいなければ祖母もおらず、女は本当にただ一人だから家に長くいても息が詰まる。さらしできつく締め付けられているのは承知の事だがいっそうの苦しみをいつも強いられているかのようだった。
しかし、戦場に出れば嫌でも兄弟とは共闘をしなければならなくなる。一族誇りの火遁を底上げする私の風遁はどこでも引っ張りだこであるからだ。
感謝の言葉もなければ、改善点を指示されることもない。ただ火を強く、大きくすることだけを全うする。
荒れ狂う戦場でも、私の全てをさらけ出させてはくれない。
けれど、受け止めてはくれるのかもしれない。嘆き、悲しみ、憎しみを相手の死を引き換えに。
これだから女は弱いと言われるのだろうと毎度痛感させられる。