第11章 伊黒小芭内
「えええ?!!まだしてない?!!」
昼下がりのおしゃれなカフェに善子の高音が響いた。
「ちょ、ちょっと!やめてよ!声おっきいの!」
周りは私と善子を見ていて、それに気付いた善子は大きく咳払いをして座り直した。
「とにかく!まだしたことないのはどうかと思う」
真剣な眼差しで見つめられると、私の方に問題があるんだと思わされて、私は唇を噛み締めて目を逸らした。
「お家デートとかしないの?」
髪の毛の色とよく似たレモネードを善子は飲みながら私の返事を待つ。
「ん〜…したことないかも」
いつもは私が行きたいと言ったカフェやケーキ屋さんに行ってスイーツを食べるのが私たちのデートの通例だ。
申し訳ないと思ってどこか行きたいとこはないのかと聞いても、お前の行きたいとこが俺の行きたいところだ、なんてかっこいいセリフを言われたらもう何も言えない。