第8章 「The hole」宇髄天元
「私…もう死んじゃうと思って…だけどこうしてここに宇髄先生がいるなんて…」
私のお腹に回された腕は暖かくてやっぱり優しかった。
でも、灰色のスウェットに、柄とは思い難い赤い絵の具のようなものが飛び散っていた。
「お父さんは…?」
なんだか嫌な予感がして、私は廊下の奥をのぞいた。
すると、トイレの部屋から飛び出した父の足はすっかり白くなっていた。
宇髄先生の顔を見上げると、ゾッとするほどの静けさをまとった真顔のまま遠くを見つめていた。
「殺した」
掠れた声で宇髄先生はそう言う。
今度は私が宇髄先生に穴を開けてしまったのだ。
私に降り掛かっていた全ての悲しみの飛沫を自分で勝手に背負い込んだ。
「大丈夫…大丈夫だから、先生」
私たちはお互いに傷口なのだ。
私の穴を埋められるのも、宇髄先生の穴を埋められるのもお互いだけ。
私の存在も、あなたの正体も、他の人は知られない。
分からない。
ただ隠して、埋めてこれから生きていく。
私たちは傷口なのだから。