第8章 「The hole」宇髄天元
真っ青に澄み渡った空。
雲は所々にちぎった綿菓子のように浮かんでいる。
宇髄天元の家は公園から5分歩いた先にあった。
こうしてたまにフラフラと公園まで歩いて、ぼんやりと空を眺めたりする。
自分的には地味だとは思うが、空を眺めているとインスピレーションが湧いたりするときもある。
ところで、宇髄天元は1人の女子生徒を思い浮かべていた。
綾川沙織だ。
はじめて彼女のクラスの担当をしたのは高2のときで、その日はリンゴを描かせていた。
『おー、お前どうだ?』
ひょこっと何気なく覗いたその絵が宇髄天元の心からずっと離れなくなるものとなった。
それは無機質に白黒で仕上げられたりんごだった。
ほかの生徒は赤色で塗っていて、変わっていることといえば濃淡くらいだ。
『どうしてその色にしたんだ?』
『…その色は、私は持ってないので』
そんなことはなかった。
綾川の絵の具入れには赤色の絵の具が入っているチューブがあるのが宇髄天元には見えた。