第9章 善意の横槍
「赤井さん、あなたの所為でが……どれだけ苦しんだか……知らんからそんな事が言えるんでしょう」
「俺は彼女を苦しめていたのか?」
「そう。この一年ずっとだ。最近ようやくあなたの事を忘れて、楽しそうに笑うようになってきたっていうのに……今更出て来てまた彼女の心を掻き乱すような事はしないで頂きたい」
「辛い思いをさせていたのなら、本当に申し訳なかった……だが、あの時は、ああするのが最善だった」
「たとえそうだったとしても、が辛かった事は事実だ。ただでさえ今のは強いショックを受けて倒れてるんだ、そんな時にあなたの事なんて出て来たら……」
目の前の“あの彼”は、何か考えるように黙った。
でも一度表にしてしまった俺の情動は止まらない。多少表現は大袈裟だが、これくらい言わねば彼も身を引いてくれんだろう。
「もう、には関わらんでくれ。明日も来なくて結構だ。帰ってくれ」
この男はこんな時まで冷静を貫くのか。顔色ひとつ変えずに、組んでいた脚を戻すと、立ち上がった。
「では、今日は帰ります。明日の見送りは別の者を向かわせますので、明日の朝はホテルの一階でお待ちください」
「ああ」
「今回はご協力ありがとうございました」
彼が部屋を出て行き、静まり返った部屋での寝顔に問いかける。
俺のしたことは、間違っているか?
“あの彼”の事はもう終わってるんだろう?
何も知らず、今の恋人と穏やかに過ごす、それが一番いいよな?
ちなみにが前回倒れた時っていうのは、彼女が自身の両親の死を見てしまった時だった。
ショックでしばらく意識を手放してしまい、両親に危険が迫っている事を誰にも伝えられず……が目覚めた時には、両親は既に息絶えていた。
相当辛かっただろう、俺はそんな彼女もずっと見てきた。
には寂しい思いをさせたくない、普通に幸せになってもらいたいだけなんだが……俺はお節介が過ぎるだろうか?