第9章 善意の横槍
自分の部屋でシャワーを浴び、の所へ戻ると、赤井さんは部屋の奥で椅子に座り、静かにベッドの方を見つめていた。
「すみません。のこと、ありがとうございました。赤井さんこそ服、大丈夫ですか?」
「これくらい平気です」
「あの、今回のの仕事はもう終わりですよな」
「ええ」
「でしたらあとは俺だけで大丈夫ですから、気にせず仕事に戻って頂いて結構ですよ」
「いえ、ちゃんとさんに礼を言ってから帰ります……それに彼女に大事な話もひとつあるもので」
「へえ、そりゃまた……どういった話です」
「まあ……彼女は気付いていないと思いますが、俺は日本に住んでいた時に彼女に大変世話になっているんです。その時の礼をまだできていなくてね」
「そんなことが。ん……?いつ頃の話ですかそれは」
「一年以上、前の事です」
嫌な予感が頭の中を過ぎり、思わず顔を顰めてしまった。
“が気付いていない”という点は少々引っ掛かるものの……もしかすると、の言う“あの彼”は、もしかするとこの男だったりするのか?
と男性に何かがあったとするなら、この数年は“あの彼”くらいしか思い当たらない。
だとしたら……少し前までなら飛んで喜んだかもしれないが、今となっては最悪の事態だ。
ただでさえ精神的に不安定な状態のの前に今“あの彼”が現れたら彼女はパニックになってしまうのではないか。
しかもせっかく降谷さんって恋人もできて、上手くいき出したっていうのに……
「まさかとは思いますが、世話になったって……赤井さん……の家にしばらく厄介になったとか、では無いですよね」
「……ご存知なんですか。そのまさかですよ」
巨大な鉛玉に、ゆっくり頭の上から押し潰されるような……ジワジワと事の重大さがのしかかってきた。
どうして今になって……もっと早く出てきてくれれば良かったものを。
の事を考えれば、何も知らないまま、過去の事だけが記憶の片隅にある状態のままが良いだろうか。
知れば彼女はどう思う?ずっと会いたいと思っていた男に会えたとなれば……どうなる?
俺は自分の中で勝手に結論を出した。
もう今のに“あの彼”は必要ない。