第8章 アメリカでの仕事
翌朝。昨日とは違って暗い雲に覆われた空の下。それでも昨日と同じ様に仕事が始まり、現場を順に回っていった。
そして遂に赤井さんが一番怪しいと睨んでいるポイントに到着する。
明日ワシントン市内で行われる市民マラソンのゴール地点付近だ。現在沢山の車が行き交っているこの大通りが、明日は朝から封鎖されてマラソンのコースになるんだそう。
かなりの数の民衆が集まることが予想されるし、報道陣だって来る。自宅のテレビでマラソン中継の番組の予約でもしておけば、大量に怪我人の出る犯行の瞬間を記録に残せるんだとかなんとか赤井さんは言ってた。
先生と赤井さんに少し後ろから見守られながら、目を閉じて意識を集中させていく。
別に毎度気楽にやってる訳じゃないけど、今回はかなり緊張してる……いつも以上に、閉じた目を、開けるのが怖い。
ゆっくり瞼を開ける。
そしてすぐさま閉じた。
「せ、せんせ……あ、かいさん……見えた」
「本当か!」
「なんなの……や……」
「何が見えた!?」
これは本当に明日のこの場所の現実なのか。
目の前に広がった景色が嫌すぎて……ギュッと固く目を瞑り、顔を手で覆って……知らない内に脚から力が抜けて地べたに座り込んでしまった。
こんな酷いのは……初めてだ。死んでいるのは一人じゃなかった。おそらく数人。けど、数を瞬時に把握できるような遺体の状態ではなかった。
一体、どうなったら、こんなことになる……
「っ!おい!しっかりしろ!」
いつの間にか降り出した雨が、買ったばかりの服に落ち、染みて冷たくなってる気がする。でもそんなの今はどうでもいい。
後ろから何か分厚い布のようなものをバサりと掛けられた。それから肩を優しく抱かれている感触。
温かくて妙に落ち着いて……その温もりにすがりつく。
「……」
「ゆっくりでいい、落ち着いてからでいい。だがこのままでは濡れてしまう、とりあえず屋根の下に入るぞ」
先生のやるせなさそうな声の後に、こんな時でも全く動じてなさそうな赤井さんの淡々とした低い声が頭の上から響いてくる。
まだ目は開けられない。開けたくない。
身体が勝手に持ち上がった。支えてくれる腕にしなだれかかったままフラフラ歩き、なんとか雨のかからない所に来れたようだ。