第8章 アメリカでの仕事
「脳が疲れた時は炭水化物か砂糖ってよく言うけど……普通は無難なのを買ってくるよな」
「でしょ?」
「の仕事相手が賢そうなヤツで安心したよ」
「うん」(それがあの赤井さんだとは言えないけど)
「で、の写真は?」
「え、っとね……なんか自分で自分を撮るのってちょっと……」
「じゃあテレビ電話はできるか?」
「それは出来……違う!できない!すっぴんだし……」
「そんなに変わらないだろ、前に見てるし問題ない。一回切るからな。ちゃんと出ろよ?」
「ちょっと!え……待ってよ!」
虚しくも通話はプツッと切れて……数秒後またビデオ通話の着信の画面が表示される。
仕方ない。出ない訳にもいかない。ゆっくり指をスライドさせる。
と、画面の向こうにはスーツを着た零くんがいて、思わず目がソコに釘付けになる。格好良いな……やっぱりビデオ通話にして良かったかもしれない。
「もしもし……」
「はもう寝る前なのか……そういうカッコも可愛いな」
「ただのホテルのパジャマだよ……零くんは仕事中?電話いいの?」
「あと数分は平気だ」
「ほんとに?」
「気にしなくていい」
「そう?あ、そうだ。アメリカの警官とドーナツの話って知ってる?さっきこっちの人に聞いたんだけど面白くてね」
「あれか?警察官を店へ立ち寄らせる事で防犯も兼ねられるってやつ。犯罪大国ならではだよな」
「やっぱり知ってるんだねーさすが」
「……同業者のことだからな」
「ふーん。でもこっちの警察の人は日本の警察ではカツ丼が出てくるって思ってるみたいだよ」
「カツ丼か……僕も実際勤めるまで本当に出るんだと思ってた」
「え!零くんらしくなーい」
「は僕を何だと思ってるんだ?知らない事だってある。若い頃なら尚更そうだ」
「へぇ……」
クスクス笑いながら画面の中の零くんを見つめる。いつもの“何でも知ってる零くん”も勿論素敵だけど、今みたいな“何かを知らない零くん”はすごく可愛く見える。
世間一般的に言う“母性本能をくすぐられる”ってやつなんだろうか。心理学的にはまた違う言い方をするんだけどね。
しばらく特に何でもない会話で笑っていると、零くんの後ろから声が聞こえてきて。おやすみと頑張ってねの不思議な挨拶を交わして、通話を終えた。