第8章 アメリカでの仕事
優しく背中を撫でてくれる、その大元の身体にピタっと抱き着いてハッと気付く……この体つき、先生じゃない。ってことは赤井さん……っ!?
パッと身体を離す。もう目を開けても遺体は見えない筈。目を開けばやっぱり目の前にあったのは赤井さんの身体で。更に距離を置く。
心臓がバクバク速く動いているのは何の所為か。
「すみません……っ、先生かと思って……」
「気にするな、減るもんじゃない」
心無しか微笑んでるように見える赤井さんに、なんだろう、胸がきゅう……っと縮んだ気がした。
でも、気はしっかりしてきた。
「……あの、何人も、人が亡くなってるのが見えました。酷い状態で……身体がバラバラで……」
「……死因は分かるか」
「さあ……でも刺されたとかではなさそうです……一瞬しか見てなくて、ちゃんと見れなかったから……もう一度、見てみます……」
「大丈夫なのか……?まだ時間はある、少し休んでからでも構わんぞ」
「大丈夫です」
私の頭の中に映っている光景を写真に出来たらいいのに。生憎そんな便利なものは無いから、自分で見て、見たままのものを言葉にして伝えなくてはいけない。
そしてそれは私にしか出来ない事であって、いくら「時間はある」って言われたって早くするに越したことはない。
少しだけ強まってきた雨に当たりながら、屋根の外へ出て、もう一度目を閉じて……開いた。
今度は先生も赤井さんも、すぐ真横に立っていてくれている。
見えるままの惨状を口にしながら、指でその場所を指し示す。泣きそうになってきた。頬を伝っているのは雨なのか涙なのか。
しっかり数えてみたら、遺体の数は四体。普通の死に方じゃない。物凄い衝撃、おそらく爆発に巻き込まれたんだと思われる。
私に見えているのは亡くなった人だけだ。でもこれだけの事が起こるのだとしたら、怪我人も相当数出そう。
遺体の転がっている場所から推測するに、犯人が“何か”を仕掛けたのならばおそらくあの辺……
「分かった。もう充分だ。少し休め……」
「はい……ありがとう、ございます……」
肩に赤井さんの手を置かれ、「休め」と言われた途端、張り詰めていた気が一気に緩んで……身体からスーッと力が抜けていく。
そのまま目の前が真っ暗になって……意識が途切れた。