第8章 アメリカでの仕事
FBI本部を出て再び車に乗り込み、ここでの宿だと連れてこられたホテルは、私でも分かる名の通った立派なホテルで……益々プレッシャーを感じてしまう。
「一時間後またここに降りてきてください。夕食がてら明日からの予定の確認をしましょう」
「はい」「ええ」
「何か食べ物のリクエストは?」
「なんでも、食べれますよね?」
「だな。まあせっかくだしアメリカっぽい所がいいよな」
「分かりました。ではまた」
赤井さんが背を向けて去っていき、ようやく緊張が解けた。先生とエレベーターに乗り込み、大きく息を吐く。
「先生……あの赤井って人、多分零くんと知り合いなんですよ……でも関係がめちゃくちゃ最悪で……零くんの精神衛生上良くないくらいに」
「……それでか」
「そう。だから零くんの話題はNGでお願いします。帰ってからも零くんの前であの人の名前は出さないで」
「もしかしてアレか?こないだのカウンセリングで……親友を追い込んだとか言ってた潜入捜査官」
「ソレです」
「……酷い偶然だな」
本当に……零くんがこの場にいなくて良かった。今頃日本は朝方?彼はまだ寝てるかな。
部屋に入り、とりあえずシャワーを浴びて着替えれば、あっという間に一時間。
一階へ降りると、既に先生と赤井さんは待っていて。急いで彼らの元へ合流した。
夕食は近くのダイナーだ。賑やかで、客の声が店内に溢れ返ってる、映画やドラマで見たことあるような、これぞアメリカの大衆食堂!って感じのお店だ。
体内時計も狂ってる私にはちょうどいい。がっつりディナーって気分にはなれない。
軽い食事を取りつつ、テーブルに置かれたタブレットで、明日から回るイベント会場や広場の情報を知らされる。
「今までの犯行から推測するに、俺はココが最も狙われる可能性が高いと思ってはいるが……確証は無いしやはり少しでも可能性のある箇所全てを回ってもらいたい」
赤井さんは、低いトーンで、淡々と、落ち着いた喋り方をする人だ。この人の喋り方はなんとなく耳触りが良い。
電話の時は無愛想で高圧的な人だとばかり思ってたけど……実際に会って喋ってみるとそこまで嫌じゃない。
ただ、彼の端正な顔立ちのその表情は、空港で会ってからしばらく経つけど、ほとんど変わってないんじゃないだろうか。怖いくらい無表情。