第8章 アメリカでの仕事
「赤井さんは、日系の方ですか?顔立ちもですが、日本語もかなり流暢ですよね」
先生が車を運転する彼に尋ねてくれた。
「ああ……説明するのが面倒なんでね、そうだと答えてしまうこともあるんですが……国籍はアメリカです。しかし、俺の父は日本人、母はイギリスと日本のハーフで……元の国籍は違うんです」
「……たしかにそれは説明が面倒そうだ。日本に住んでたことは?」
「子供の頃はほとんどイギリスで育ったので……ですが少し前まで数年間、日本で仕事をしていたので、日本のことも分かりますよ」
「FBIの仕事ですか?」
「ええ。少し前にあったでしょう、烏丸の……」
「おお、そうでしたか!へえ……!それはすごい」
先生達の会話を聞く限り……やっぱり……この人があの人なんだろう。
どうしよう……ってどうしようもならないんだけど。零くんに言うべき?一緒に仕事するなんて言ったら良い顔はしないだろうな。黙っておくべきか。
すると、先生の口から余計な一言が飛び出しそうになったので慌てて阻止する。
「いやー偶然ですね。実はこののこいび」
「あーっ先生!それより見てください!あれホワイトハウスじゃないですか?」
「なんだ……本当にどうした?」
「ワシントンって初めてだからかな、ははは……」
赤井さんに零くんと私の事を知らせる必要はない。暗がりでチラッと顔を合わせただけの私の事なんてきっと彼は覚えていないだろうし、この人とは仕事相手として必要最低限の関わりしか持つべきじゃないだろうから。
また先生に耳打ちをし、“訳は後で話すから、零くんの話はしないで”と頼んだ。
そのうち車がFBIの本部に着き、赤井さんのボスの待つ部屋へと案内される。あの優しそうなおじさまの所だな。
しかし英語が忙しなく飛び交う落ち着かない所だ……警察機関ともなれば当然のことなのか。ココは日本で言えば警察庁?公安?零くんが居る所もこんな感じなんだろうか……
ボス、ジェイムズさんの部屋に入り、想像してた通りの柔らかい雰囲気の紳士的な男性に出迎えられて妙にホッとして。
出発前に買ってきた日本酒を渡すと、心から喜んでくれたような顔になったのがとっても印象的で。
好待遇で招いてもらったことへのお礼と、期待に応えられるよう頑張る旨を伝えて、部屋を後にした。