第8章 アメリカでの仕事
「おーい、俺もいること忘れてないよな?」
しばらくすると水野先生が呆れた顔で声を発した。
「勿論ですよ。こんにちは水野先生。あの……僕達お付き合いする事になりました。一度ちゃんと報告しなければと思ってたんですが……こんなタイミングですみません」
「いや、結構。降谷さんなら安心です」
「……恐縮です。ところで、もう手続きは済ませましたか?」
「ううん、今から」
「じゃあ僕は……あの辺で待ってるな」
またニコっと笑って向こうに歩いていく零くんの背中をボーッと見つめていると、先生に突っ込まれる。
「すっかりラブラブじゃねぇか」
「ですかね……この前自分でも恥ずかしくなったくらいです」
「まあ、いいことだ。やっぱり恋愛は一番の特効薬だよなー」
手続きを済ませて、零くんのいる場所へ私一人だけで向かう。金髪は空港の人混みでも探しやすい。
さて、お別れの挨拶だ。(長い間離れる訳でもないのに大袈裟だけど)
「頑張れよ」
「うん」
「でも無理はするなよ」
「……うん」
ポンポンっと頭を撫でられて、しばらく無言で見つめ合い……ふわりと抱き締められた。頭の上に零くんの顎を乗せられ、そのまま会話が続く。
「何かあったら連絡して」
「零くんもね」
「ああ。じゃあ、また月曜日、迎えに来る」
「うん。で、火曜日は研究室でテストだね」
腕からそっと解かれると、軽く唇が触れ……またこんな人前で!!!と思ったけど、ここは空港のロビー、再会を喜んでハグしたりキスしたりしてる人達も割といて。あまり気にならなかったかも。
「向こうは犯罪大国だからな、気を付けろよ」
「その向こうの警察と一緒に仕事するんだよ?大丈夫だって」
「僕の方が完璧に守れる自信がある」
「そりゃあ、零くん以上の人はそういないだろうけどさ……」
「まあ用心に越したことはない」
「うん。気を付けるよ。じゃあ……そろそろ、行ってくるね」
「ああ。行ってらっしゃい」
名残惜しいけど、後ろを向いて……ガラガラとスースケースを引きながら荷物検査のゲートまで歩く。たまに後ろを振り返る度に、零くんはずっとこっちを見てるから、なんだか胸が切なくなってきた。
検査も終わり、彼に向かって大きく手を振って、水野先生の待つ場所へ向かった。