第8章 アメリカでの仕事
「可愛くて仕方ないんだ……それでいて安心できるっていうか……なんだろうな」
「あの、零くん……地味に恥ずかしいんだけど……」
ずっと手は握られたまま、ふと気付くと周りから私達は好奇の目線で見られている。突き刺さる視線が痛くて俯き加減の私を見て、零くんは楽しそうに笑う。でもいつの間にかそれにつられて私も笑ってしまって。向かい合って見つめ合いながら、何が楽しいのか声を上げて笑う。
きっと今の私達は傍から見たらバカップルだ。まさか自分にもこうなる日が来るとは思ってもみなかったけど……
誰かとただ一緒に時間を過ごすだけで、あんなに楽しい気分になるのって久しぶりだった。
零くんにアメリカでの仕事の話をしたのは、航空チケットが研究室に届いた日の深夜。
ベッドに入って寝る前に彼と電話をしてて。(長電話するのって、零くんがかなり久しぶり)
「アメリカか……まあ、の力のことを耳にすればどこだって欲しがるよな」
「私は複雑だけどね……水野先生はね、アメリカの方が殺人事件の件数も遥かに多いし、どうせならしばらく行ってくればって言うの。でも私は人の役に立てればそれは嬉しいけど……」
「嫌なものは見たくないよな」
「そう。それ」
「僕も仕事柄普通の人よりもそういう現場は多く目にしてるけど……慣れたくはないよな」
「うん……何も見なくて済めばいいんだけど……それじゃあ何の役にも立てなかったってことだから……」
「それはが気にすることじゃない」
「……ありがとう、そうだよね」
「あんまり無理するなよ。ちゃんと休みながらさせてもらえよ?」
「……あっちの人も零くんみたいな人ならいいんだけどね」
「僕が同行できれば……って思う所だけど……週末はどうしても外せない仕事がある」
「こんなことで仕事休んだら零くんじゃなくなっちゃうよ!頑張って!」
「まあな。でも見送りには行く。何時の便だ?」
そしていよいよ渡米の日。
夕方、空港に水野先生と二人到着して手続きをしようとしていると、後ろから名前を呼ばれた気がした。
くるっと振り返ると零くんがニコニコしながら立っていて。目が合って思わず私も笑ってしまう。