第2章 恋はまだ始まらない
降谷さんというこの人……人を見た目で判断してはいけないんだろうけど、パッと見はとても公務員、しかも警察官だとは思えない容姿だ。金髪に、かなり日に焼けた肌。でも口調も態度も真面目そうだし、スーツをきちんと綺麗に着こなしてる。嫌な感じはしない。変わった人もいるものだ。
その彼が乗ってきた車の後部座席に水野先生と乗り込み、まずは空港へ向かう。
しばらくは誰も何も喋ることはなく、車内にはラジオの音声がただ静かに流れているだけだった。
外の景色をボーッと眺めていたら、ふと肩を先生の指でつつかれ。先生を見れば、先生は運転席の方を目線と顎で指している。
“この男どうだ?”って意味だと思われる。
“そんなことまだ分かりませんー”と、顔を顰め首をゆっくり傾げると、先生は降谷さんに話し掛けだした。
「失礼ですが降谷さんってお若そうに見えますけど、おいくつなんですか?」
「僕ですか?所謂アラサーってやつですよ」
「へー、そんなにお若いのに警視さんで。キャリア組ってやつですね」
「……そういうことになるんですかね。あまり気にしてませんが」
「またまたー。こういう警備関係のお仕事は長いんですか?」
「いえ……僕はここ数年、全く別の捜査にあたってたんです。少し前にようやくそっちにケリがつきまして」
「へえ……何年も捜査されてたって……もしかしてあの烏丸の……だったり、します?」
「……当たりです」
「えーっ!降谷さんが捜査されてたんですか!すごい!絶対歴史に残る事件ですよね!」
ビックリして、思わず二人の会話を遮り大声を出してしまった。いやでも、素直にすごいと思った。
あの世界的テロ組織の壊滅は、しばらく世間を騒がせまくった大事件だ。日本の警察とアメリカのFBIが協力して壊滅させたんだったか。
どうやらこの人、すごい人らしい。
でも降谷さんは「僕は与えられた任務を遂行しただけですから」と謙遜してる様子で。控えめな人だ。
それに今まで彼の髪と肌の色にばかり気を取られていたけど、マジマジと横顔を見れば、かなりイケメンであることに気付く。ハンドルを握る手も綺麗。
ふと水野先生の方を向いたら、またニヤニヤしてこっちを見てる。そしてまた降谷さんに話を振りだす。
「でもそれだけの大仕事をされてた方が今度は警備ですか?えらく畑が違うと言いますか……」