第6章 好きの定義とは
そのうちワインは空っぽになり、一旦店を出ることになる。
カバンから財布を取り出すと「僕は付き合ってる女性にお金は出させない」と財布を軽く押し戻された。
これまでと違う断り文句に、そうか、私達付き合ってるのだ……と無性に恥ずかしくて口元が変に緩みそうになるのをなんとか引き締めた。
「ありがと……ごちそうさま……」
「いいって。それよりまだ時間大丈夫だよな?もう一軒……いや、ウチにしようか。今日はもっとゆっくりと話がしたい」
「零くん家……?」
すぐそこに彼の家があるのは分かってるけど……男の人から家に誘われたら色々……考えてしまう。
「あ、別にそんな、変な意味はないんだ……が嫌なら」
「大丈夫。行く」
零くんからは所謂“ヤリたい”みたいなギラギラしたオーラは感じないし。
でももしそんな事になったとしても……零くんはきっと優しいんだろうなーなんて……考え出すとダメだ。こっちがギラギラしてきそうだ。
考えを振り払っても、ふとした隙にまたそんな事に頭の中を支配されてしまうのだけれど。
零くんの家まで歩きながら、今までだったら気にもならなかったことが気になって仕方ない。
腕をちょっと伸ばせば触れそうな距離に彼の腕がある。こんなに男の人の手が気になるのはいつぶりだろう……
って、考えるまでもなかった。“あの彼”以来だ。
いつかは零くんのことばかりに頭が埋め尽くされる時も来るんだろうか……
「どうぞ。入って」
「おじゃましまーす……わー、綺麗にしてるんだね」
「そうか?」
お世辞じゃなく、零くんの部屋はめちゃくちゃ綺麗だ。いつか彼を自分の部屋に呼ぶ時までに、ウチも徹底的に掃除しておこう。それから料理の特訓も……
優しくて頼れるエリートでイケメンの癖に料理も掃除もできるとか……誰かこの人の欠点を知ってたら教えてほしいよ……考え出すとなんだか自分の肩身が狭くなってくる。
キッチンとひと繋がりになってるリビングに通され、ソファを勧められ、座る。
奥にひとつ見える扉の向こうが寝室なのかな。
「コーヒーか紅茶か、どっちにする?それとも酒の方がいいか?」
「……とりあえずコーヒー、かな。ありがとう」
「ああ。座ってて」